催眠療法    
 











パフェ 1999 WINTER号 「貴女のそばにソウルメイト」


貴女のそばにソウルメイト

パフェ 1999 WINTER号




注目される前世療法の実際

   
神がいるのかいないのか、宇宙のどこかに別の社会があるのかあり得ないのか、魂は存在するのかしないのか。その問答を繰り返すのは空しいことかも知れない。しかし現代、人間の健康を肉体だけでとらえることに疑問符が投げかけられ、心を探す人たちが増えている。心とは一体、何? 心はどこへ向かっているの? しばし魂の声に耳を傾けてみることで、あなたにとって大切な何かに出会えるかも知れない。  

文・式 和香子

ヒプノセラピー を正しく認識




催眠に関する誤解

 催眠と聞いて思い浮かぶ絵はどんなものだろうか。懐中時計を振り子に「あなたはだんだん眠くなる?」と語りかける医者か、テレビの催眠ショーか。いずれにしても、これら私たちの催眠に対する印象は決して正確な知識ではない。

 催眠とは、意識がなくなり、他人の言いなりになるものではない。催眠中の意識ははっきりしている。例えばアルコールを少量体内に取り入れることで気分が解放された状態や、好きなタレントのコンサートに行き軽く興奮している時のような感覚に似ている。自分が行いたいと思っていることであれば、ほんの少し心のたがが緩むことで簡単に行動に移せる状態、つまり自分の本質に近づき、感じ取ることができるのが、催眠状態である。




顕在意識と潜在意識

 人には顕在意識と潜在意識がある。顕在意識とは計画を立て方法を選び行動するものであり、潜在意識とは自分が計画したものでも方法を選ぶこともなく存在する意識である。しかしこの潜在意識は一体どこにあるのだろうか。

 人間の癖や、性格、行動パターンは、 0 ? 13 歳頃までにできたエゴから大きな影響を受けている。 0 ? 13 歳といえば、心がまだ未発達であり、目の前で起こるあらゆる事態を自分を中心に考えるのが特徴である。「お母さんが怒っているのは私のせい」「友達が楽しそうなのは私が優しくしてあげたから」「両親が喧嘩をしているのは、私が悪い子だから」良くも悪くも目の前の社会は自分を主人公に展開しているかのごとく見えている時期。それらがエゴとして無意識の中にすり込まれていくのである。

   13 歳を過ぎた頃、思春期にさしかかる。この頃に、それまで作られてきたエゴの固まりが堅い膜で覆われ閉ざされる。閉ざされた潜在意識はその後も私たちの顕在意識に大きな影響を与えるようになる。幼い子供の頃の体験からすり込まれたエゴが、壊れたテープレコーダーのように私たちの心に働きかけ、そうなると簡単には行動パターンを変えられなくなる。  

 母親の情緒が不安定で同じように話しかけても褒められる日もあれば、逆に叱られる日もある。子供は母親に話しかける前には必ず顔色をうかがうようになる。その情報が潜在意識にすり込まれると、大人になっても人の顔色ばかりうかがったり物事の組立を考えられない大人になる。そしてこの閉ざされた潜在意識の情報を変更するには、相当の困難を要するのである。




年齢退行療法

 年齢退行とは、催眠により幼い頃の自分に戻り、そこで起こった事態を再体験するというものである。

 催眠により年齢を退行し、過去に起こった出来事を再体験する場合、ちょうど意識が二つに分かれ、大人である自分と子供である自分が同時に存在している状態になる。子供の体験を知識や社会性を身につけた大人の自分が分析し、新しい情報として取り入れる。催眠という普段の意識とは違う状態に自分を置くことで、顕在意識と潜在意識の狭間にある膜の力を弱め、そこで再現されるリアルな過去の場面を現在体験しているような錯覚を起こさせる。これらのシステムにより、これまで自分の行動パターンにネガティブな影響を与え続けてきた潜在意識の中の歪んだ情報を、正しく書き換えることが可能になるという。

   セラピストの誘導によって、すでに忘れ去られた過去のいくつかの場面に戻る。子供の自分は当時のものの見方や受け取り方、感じたことを、まるで今まさに体験しているかのように語り出す。そして大人の自分がそれを遠くで見つめる。セラピストは上手にあなたが当時やりたくてもできなかったことを行えるように設定をする。「今お母さんは怒ったりぶったりしないから、正直にどうしてほしいのか言ってごらんなさい」と促す。子供の意識の部分のあなたは、恐る恐る口を開く。「お母さんが怒っているのはアタシのせい?」そうして母親の情緒が不安定なのは決して自分のせいではないことを知る。親にも機嫌の良いときと悪いときはあるが、全てが自分のせいではないし、いつでも愛されていることに変わりはないということに大人の意識の部分のあなたが気づくと同時に、潜在意識が修正され無意識に人の顔色を見ることはなくなっていく。




過去世回帰療法

 過去世回帰療法とは、催眠によって年齢退行を行うのと同様、 0 歳時を通り越し、母胎に宿る以前、さらには別に時代の全く別の人生を経験していた頃に戻り、その人生を再体験すること、前世療法ともよばれる。

 さまざま考え方はあるが、ここでは輪廻転生があるものとして考えてみよう。魂は繰り返し生まれ経験し成長を続けるものとして、過去世回帰をとらえると分かりやすい。

 催眠に入る際は、セラピストの誘導に従い、日常生活の中で自然と身にまとう緊張感を取り除き、リラックスした状態を作り出す。つま先から頭のてっぺんまで、少しずつ少しずつ力を抜いていく。軽く催眠に入りかけたところでセラピストはイメージのヒントを与えてくれる。素直に従ってイメージをすると、そこからは驚くほどリアルにイメージの世界で行動することができるようになる。

 過去世回帰療法では前世で体験したストーリーを知り、その時受けた心の傷や体の苦しみが今世の自分に及ぼしている影響を自覚する。この時、今世での心の傷や自分自身の問題点が明らかになっていないと、前世からの影響を十分に感じることができないため、過去世回帰療法を行うに先立って年齢退行療法を受け、自分自身について見つめ直しておくことが大事である。

 前世の旅から戻る途中、セラピストの誘導により、前世からの影響を取り外していく。そして新鮮な気持ちで今世の自分の生きる意味や目的を見つめ直すことで、自分自身のテーマを発見することができるのだ。




ソウルメイト

 肉体と魂という概念で私たちの命を考えたときに、輪廻転生するのは魂のほうだ。そしてこの魂はグループで転生をするという。特に今現在身近な存在である家族や親しい友人などが、どこか別の人生で関わり合っていた可能性は高い。この転生するグループである魂のことをソウルメイト(あるいは広義のソウルメイト)という。また転生を繰り返しながら、恋人同士であったり夫婦であったりと、強い結びつきを多く繰り返す魂を特にソウルメイト(あるいは狭義のソウルメイト)とよぶ場合がある。

 初めて会った人に、不思議な暖かさを感じ、包まれるような優しさで惹かれたことはないだろうか。わけもなくその人に対して挑戦的な態度をとってしまったり、どんなに親しくなろうとしてもつい喧嘩腰で話をしてしまう人は身近にいないだろうか。もしかしたら彼らは別の人生であなたの母親であったかも知れず、敵であったかも知れない。目と目が合った瞬間に心が弾け、やっと会えた喜びに体が震えた、その人はあなたの狭義のソウルメイト、多くの学びをもたらしてくれる愛のパートナーであるかも知れない。

 過去世回帰療法をいくつか経験することによって、原因の分からない人間関係のゆがみを直すことができる。過去世からの思いを知り、相手を許し、新しい関係を作る勇気を得ることができる。そしてあなたのソウルメイトが誰であるのかを知る場合もある。あなたはすでに永遠のパートナーに出会っているのだろうか。




魂は成長のため に転生する

   
今回、催眠療法、そしてソウルメイトについての取材に関しては、催眠館ラディアンス代表 山崎靖夫 氏の協力によって進めた。ソニー(株)フロンティア サイエンス研究所で、現在も視覚と脳機能の研究を続ける山崎氏の話から魂の世界について触れてみたい。




山崎靖夫

   1957年生まれ。ソニー株式会社創立者井深大を所長とするソニー(株)生命情報研究所にて、精神神経免疫学の研究をする。その過程で催眠と瞑想を研究に応用。井深大没後、研究成果を世に還元するため催眠館ラディアンスを設立。

   日本の前世療法の第一人者。




年齢退行療法のすすめ

   
「催眠は正しい知識がないと上手にかかりません。間違った催眠の知識が世の中に流布しているからです。きちんと説明を聞くと非常に入りやすいです。また今世の身の回りのさまざまな出来事の整理ができていないと、過去世を見てもそれが自分にどのように影響しているのかを正確に知ることができない。だから年齢退行から行っていきます。年齢退行の裏には、深層心理的にさまざまな影響が潜んでいます。特に親からの影響がすごく大きいですね。例えば一人の女の子が父親に遊んでもらいたいと思う。父親はいつも忙しくて遊んであげられないからたまにせがまれれば遊んであげる。でも子供が走り回るとすぐに『疲れちゃったからまた後で遊んであげるね』と軽くあしらってしまう。子供は自分の親を一番最初の異性として意識するんです。だからこの子はお父さんの態度について『男の人って?』っていうふうに感じてしまう。そうすると大人になって恋愛が成就しそうになると、『男の人って都合のいいときだけ私をもてあそんで都合が悪くなると私を捨てるんだ』という思いが強く頭をもたげてきて、うまくいくはずの恋愛も自分から身を引いてしまう場合もあるんですね。それから子供は親からの愛情を受けて育つのですが愛情って目に見えないから、なかなかうまく伝わらないんですね。でもこういうことは学校では教えてくれないし、一般的にもなかなか気づけない内容なんです。ところが年齢退行によって子供の頃、自分がどんなときに寂しく思ったとか傷ついたか思い出すと、子供の頃の考え方が頭ではなくて心の奥底で分かります。そうすると子供に対する接し方も分かって、どんどん子育ても上手になっていきます」




魂の計画

   
「魂は肉体に入る前にこの人生では何をしようかというのを計画しているんです。よく、これが私の運命なんだっていう人がいますが、運命というのは一つではありません。魂の計画とは本当はもっと広いのです。例えば生まれたときに五つの選択肢があって、その中から A を選んでも、次にはまたその A から選択肢が五つと、膨大に広がっていく、その全てを魂の学びのために計画しています。この選択肢は肉体を持った人間が選択していくのです。だから結婚相手にしても、多くの候補を用意してくれています。誰とどのように付き合うか、その人ととことん付き合うことを学ぶもいいし、早く見切りをつけることを学ぶのもいいんですね。でも、わざわざ自分を苦しめる必要はありません。今世は、過去世において思い残してしまった想念のエネルギーの影響を受けています。この影響は本来必要なものではありません。過去世回帰をしたときにしっかりこの想念のエネルギーまでも解放しておかないと、例えば、自分は過去世であの人を殺した、自分は悪いカルマを背負っていると思いこんでしまうと、せっかく過去世を見たのに沈み込んでしまいます。また、過去世での登場人物が誰か分かることにより、その人との関係がぎくしゃくしてくることもあります。ですから、自分に来ている過去世のエネルギー、過去世での登場人物に宿っているエネルギーは、しっかり解放することが大切です」




魂はなぜ転生する

   
「魂にとって転生とはいろんな人生を体験し、魂のレベルを向上させるのが目的です。また自分自身は何か。魂はいろんな人生を経験していくことによって、自分自身は何者かというのを認識していきます。過去世回帰中ではソウルメイトが今世の誰なのかが分かります。過去世回帰の中で出会う登場人物のことをずっと思い描いていると、誰なのか分かります。例えば自分は父親とどうしても上手くいかないという人が過去世回帰をすると、前世で敵対していた人物こそが今世の父親であることに気づいたりします。本来人間同士っていがみ合いたくないんです。でも過去世で敵同士であったりすると、敵対するような関係になりがちなんですね。ところが過去世回帰でその意味を知ることによって態度を変えられるようになります。さらに父親に影響している想念のエネルギーを外すことによって、相手も変わることができます。そうしてうまくいくようになり、魂はそこで成長します。つまり自分のことを価値がないとか大したことないとか思ったりする人がいますが、魂から見るとさまざまな人生を繰り返しているわけですから、別に現在の自分を卑下したり傲り高ぶったりすることなく、今現在与えられているところでしっかりと生きていくことによって、魂の成長が得られるのです。魂は何か役割をもって生まれてきています。どんな環境状況に置かれても、魂の成長のための体験なのだから、落胆したり大げさに喜んだり騒ぐことではありません。世の中のことをすべて魂の成長として考えてみると見方が変わります」




ハイアーセルフに出会う

   
「ユングが言うところの集合無意識というのがあるのですが、その中心が神といわれています。神がいるとかいないとかというよりも、意識の集合体の中心を人間が、神と表現しているんです。この集合無意識の外側に、人の意識がある。これをぼた餅に見立てると分かりやすいんですが、例えばぼた餅の中に餅米がある。それで外側の人間が、自分はいつもあんこばかり食べているから餅米が食べたいと思って神様にお願いしますよね。そうすると神様が餅米を送ってくれる。ただ表面に出るときにあんこの層を通るのであんこにまみれてしまって、この人はそれをあんこだと思ってしまう。そうするとどんなに願っても自分のところにはやっぱりあんこしか来ない、やっぱりこの世の中には神様なんていない、自分はいくら頑張っても成功できないんだと落胆してしまう。ところが瞑想とか催眠を続けることによって、あんこの層が薄くなるんですね。あんこの薄くなったところから餅米が送られてくれば、あんこと間違えることはないですから、ああやっぱり神様はいるんだ、自分の望みもかなうんだ、となる。神様といっても宗教ではないですけれども。結局自分が今世においていろんなことをしていたとしても、あんこ、つまりエゴの層が厚かったりすると、なかなかうまくいかない。催眠中もエゴの層が厚いとうまくいきません。催眠中というのは意識を集中しています。集中すると過去世の情報をしっかりと大人の意識にもってきて解釈することができます。普段、我々の脳は、しきりに活動をしています(?波の状態)。脳が活動して雑音だらけの中では過去世の情報がしっかりと伝わってこない。だから催眠中はいろんなことを考えずセラピストの言う通りにイメージして(?波の状態)、餅米をちゃんと餅米の状態で受け取るということが大切。それで過去世回帰中にハイアーセルフという概念を使うとうまく過去世回帰が進みます。今度は針山をイメージするとよく分かるんですけれども、針山にまち針がささっていて、まち針の頭の部分が肉体にあたります。肉体が滅びるとこれが取れてまた新しい肉体がここに生まれる。針の部分は変わらないです。この針の先端が神、中程がハイアーセルフ、元の部分が魂です。じゃあ過去世の情報はどこにあるのかというと、人によっては DNA に書き込まれているという人もいますが、その中だけでは書ききれません。それは集合無意識の中にあるんですね。それをハイアーセルフが集めて情報としてもってくるというように考えます」




有名人がいっぱい

   
「まず自分を特定するために、皮膚の感覚などから聞いていきます。それからどんな靴を履いているか。そして下半身に身につけているもの、上半身に身につけているもの、また体に触れていくことで男性か女性か、日本人かどうかも分かってきます。そして風景。名前も聞きます。名前は変な名前でも考え込まないで、浮かんだままで結構です。それからこちらで場面を特定します。『最も重要な場面』などと言いますので、感じたままを話してください。大事なのは先入観を持たないことです。例えば、日本人で商人でお供を連れて旅に出るという場面が出てくると、あれ?私は水戸黄門なんじゃないかって思ってしまう人がいますが、そう思ってしまうともう駄目です。とたんに助さんや格さんはどこにいるんだろうか、風車の矢七はどこにいるんだみたいな感じで思っちゃうんですね(笑)。でもただ単に、お供を連れた商人だって思っていれば本来の姿がよく見えてきます。また有名な人物であると言う人も結構多いですね。マリーアントワネットがたくさんいたり(笑)。どうしてかというと、自分の知識が邪魔をして、特定してしまう。だから自分がどんな人か見えてきても自分の知識を使って分析するのではなく、浮かんでくるままに任せるとうまくいきます。過去世の情報を解釈しようとすると自分で物語を作っているような気になります。だから忠実にシーンを観察するだけにしてください。そうすれば必ず見えてきます」




忘れ去られた愛すべき自分に出会う

  山崎氏をセラピストに実際に過去世回帰を体験してみることにした。もちろん過去に何らかのセラピーを受けたり催眠の体験も全くない。軽い興奮と緊張の中、催眠に入る前の説明を受け、さらに簡単な練習、そして年齢退行から始める。「これで本当にかかっているのだろうか?」というのが最初の本音。ところがその世界はあまりにも非日常的で心地よく?いつしか驚くような展開に自分自身が引き込まれていった。




政治に関わり絶望した占術士

   
「足首の力が抜けた?腰の力が抜けた?腕の力が抜けた?」

  セラピストの誘導に従ってからだをリラックスさせていく。すでに年齢退行の催眠を経験した後だったため、スムーズに緊張を解くことができる。

「あなたは今、草原に立っています」

 それは年齢退行の催眠と同じ場所であり、きっと同じように振り向けば、地面に唐突に現れている扉が見えるはず。

「扉を開けて階段を降りていきましょう」

    半分透明にもミルクブルーにも感じられる階段を一段降りるたび、ウーンと引き込まれるような感覚を覚える。一番下まで降りるとそこにはもう一つの扉がある。この奥には部屋があるのだ。

「部屋の中にはあなたのイメージした通りのものが揃っています」

   見渡す視線の先から光があたるように、窓が生まれ、ベッドが生まれ、ドレッサーが生まれた。見たことのない部屋だが、とても居心地がいい。金色のドアノブ、フリルのついた小花の柄のベッドカバー、ベッドカバーと共布のクッションがはめ込まれた籐のイスが置かれていた。

 部屋の奥の扉を開けるようにセラピストが言う。庭に出ると花々が美しく咲き、庭の中央には池がある。全てセラピストのヒントを頼りにイメージを膨らませているのだが、それはまるでそこにあるように感じられる。セラピストに促され、庭から続く森へ進んでいくと、森の広場に出る。

「ハイアーセルフを探してください。光のようなものです。見つかったらうなずいて?」

 ここで思わず緊張してしまった。見つからなかったらどうしようと一瞬考えたのがいけなかったのだろう。イメージは遠のき、目の前が暗くなっていく。同じ言葉を呪文のように繰り返すセラピストの声に耳を傾ける。すると声がまるで空から聞こえるように感じ、ふと見渡すとあの気持ちのよい森が目の前に戻っていた。正面にある木々の間に目を向けると、その光はチラチラと踊るように近づいてきた。私は小さく頷いた。

 ハイアーセルフに導かれ進んでいくと大きな滝に出る。滝の裏のトンネルを抜けると、宇宙のように小さな光が何万と瞬く空間に飛び出てしまった。

「さあ今からあなたはこの地球のどこかに誕生します」

セラピストがそう言い終わるか否かのうちに、私は光の線となって一点を目がけて落ちていった。

「今あなたは北半球か南半球のどちらにいますか」

「わかりません。ただ砂漠が広がっています」

「寒いですか?暑いですか?」

   少し肌寒く感じたが、寒いというほどではない。セラピストが質問するたびに、まわりの景色がどんどん見え始めていく。私はどこかの宮殿の庭に立っていた。皆が談笑したり、ゆっくりと歩いている。

「足下を見てください。何を履いていますか?」

 実際にはリクライニングチェアーに腰掛けている私が首を動かして足下を見たわけではなかったが、確かに自分の足を見ようと下に顔を向けた感覚がある。私の足には華奢なサンダルが履かれていた。「え?いつの間に?」そんなふうに思った。

 私は若い女性だった。とても美しく聡明な顔をしている。痩せて身長はまわりの女たちよりも小柄。ある高貴な女性に仕えている占い師だった。小さな楽器を手に持っていた。心穏やかで信仰深く、その声は細くてソプラノだった。

 セラピストの声で場面が飛ぶ。私は円陣を組むように座った男たちの中に加わっていた。誰もが私の話を待っている。そこは神殿のような場所だが、薄暗く何本かの大きな蝋燭に火が灯っている。

「何を話しているのですか」

 私は戦いについて話していた。戦いによって得るものよりも失うもののほうが大きいと説明していた。誰かが「ではこのままでいろと神は言うのか? 我々の子供たちはすでに苦しんでいるのだ」というような声をあげている。戦いを避ける勇気によって仲間たちを傷つけてしまう悲しみと、それがこの国の人々の気質にそぐわないことを感じていた。

 次に私は山の頂にいた。岩の近くに座っている。なぜか自分のすぐ近くに神がいると感じた。私は神と言われる存在と話をしていた。

「何を話しているのですか」

 誰もが幸せになりたいのに、そのために誰かを傷つけなければいけないことについて悲しんでいた。神は戦いを許さなかったが、それは私たちの身近な者たちの命を奪うことになりかねないことだった。その時の私にとって神は慈悲深いというよりも、畏れ多い存在だった。私は神と会話することによって大きな喜びを感じていながら、同時に取り返しのつかない絶望感を味わっている。

 場面が変わり、私は男たちの代表三人と話し合っていた。一人は若く背が高く髪の毛が長い賢そうな男だった。しかし彼は行動に短絡的なところがある。もう一人は中年で髪にはウェーブが軽くかかっていた。その男も賢かったが、心や教育ばかりを大事にして行動が伴わない。もう一人は老人だった。その老人の信仰心は厚かったが、彼の解釈には誤りが時折見受けられた。私は彼らの叫びを無視することができず、現実の苦しみの前で信仰心が薄れていく様子を悲しんだ。

 次のシーンに移ると、また山に来ていた。白く美しく所々に金糸を施した正装をしている。私は崖の上に立ち、飛び降りようとしている。

「何を思っていますか」

   国の未来とあの三人の代表のことが心配だった。彼らが現実に捕らわれすぎていくことが心配だった。そして自分が自分の心を悩ませたり汚したくないために逃げる手段として死を選んだことに十分気がついていた。

 私は飛び降りた。もっと鳥のようにふわっと飛べると思っていた予想に反して、ものすごいスピードで落ちていくのを感じた。髪が顔にかかって前が見えない。どこかに頭をぶつけたと同時に目の前が暗くなった。でも体はまだ生きている。それは分かった。絶命直前に私の魂は体から飛び出した。




海に焦がれた少女

 トンネルを抜けたら宇宙が広がるのかと思っていたら、今度はダイレクトにある場所に降り立っていた。

 少し寒く、ジメジメと湿気がまとわりつくような感じ。裸足だった。足の下にはもう何年も使ってほころび変色したござが敷かれている。薄暗い中で目を凝らすと、奥の壁が一部分削られ、そこが小さな棚のようにしつらえてある。ここは岩でできた洞窟のようだ。セラピストの声と同時に場面が変わる。

 私は海に突き出た岩に座っていた。空にはまるで降ってくるように星が輝いている。

「あなたはそこで何をしているのですか」

 目の前にはタモという少年が大きな目を見開いて私の顔をのぞき込んでいた。タモは私に求婚している。明日の漁で「母さんの魚」と呼ばれる魚に一番最初に槍を刺すからそうしたら結婚するとタモは言っている。セラピストはそれについてどう感じているかを聞いた。自分より背が低く、足も遅く、狩りも下手なタモの嫁になるのがなんだかつまらないなぁぐらいにしか考えていなかった。それ以上の感情を探しても、明日の漁に自分が行かれないことが悔しいと思っているだけだった。また場面を飛ばされる。

 私は海辺に焚いた火を見つめながら祖母の膝に頭を乗せて横たわっていた。なぜ私は漁に行かれないのかと、祖母に詰め寄る。祖母は、女が海に入れば漁が失敗するというようなことを言った。でも普段私は海で誰よりもうまく泳いでいると、反論した。海の神が怒るのだと祖母は言う。

「神様なんか見たことないぞ。それよりも『母さんの魚』の泳ぐところを見たいんだよ!」と言うと、困った顔をしながら神様を悪く言ってはならんと叱られた。

 なぜ母ではなく祖母と話しているのかとセラピストは尋ねた。

「母さんは忙しいんだ。小さい人の面倒を見ているから。でもばあさまはいつも暇で遊んでる。ばあさまはここで 1 番の年寄りでもう十分働いたから遊んでいていいんだ。ばあさまは誰より物知りだし、ばあさまの踊りは面白い。ばあさまが大好きだ」

 母は大変気丈な人で、私が男の子たちと一緒にやり投げやつる登りをしているのを他の女たちが悪く言っても、母は別にいいと言って許してくれた。祖母は人の家に入り込んでは馬鹿な話ばかりしていつも笑いの絶えない人だった。

 結婚式には辺り一面、「母さんの魚」のにおいで一杯だった。生臭かったが、そのにおいがしている間はみんなが幸せを感じられた。父が私とタモの頭に手を置いて二人の結婚を認め、儀式はそれだけだった。その日から私はタモと暮らした。

 場面が変わった。私は痛みをこらえて横たわっていた。傍らに母と祖母の顔が見える。出産のシーンだ。下腹部が大きな獣にかじられたように痛む。結局赤ん坊は死産だった。悲しみは思ったほど大きくない。母が子供はまた作れると言ったが、こんなに痛いのならもう赤ん坊は産みたくないと思っていた。

 死期は死産をした日からそう遠くはない頃だった。私は最初に見たござのようなものを何枚も重ねた上に寝ていた。いつもは父が使っている上等な毛皮が胸から足にかけて覆われている。皮膚は温かかったが体の中心が凍えるように冷たい。祖母が人は死ぬと空の星になると教えてくれた。星になり、その後海に落ちると言う。私はそれならいいなと思った。やっと「母さんの魚」の泳いでいるところが見られる。でも間違って山や森に落ちるのだけは嫌だなと思っていた。父が足下から私の顔をじっと見ている。母も一番小さな子供を抱きながら私を見ている。タモは、私が星になって海に行くと言ったら面白そうだと笑った。少し悲しくなったが、「先に行ってるぞ」と言い、私は死んだ。 17 歳だった。




兄を思い処女を通した姫

 私はどこかの城の姫だった。とても現実的な母と妹と弟、そして父がいた。ある日、父が城の外で死んで運ばれてきた。母はそのことをすごく不快に思っていた。どこかよその家で死んだらしい。

 次のシーンで私は母から別の城へ引っ越すように申し渡される。しばらくの間だと言う母の言葉とは裏腹に、もう二度とこの城へは戻れないことを感じていた。行きたくなかったが、幼い私には行った先への好奇心もあった。セラピストは引っ越す理由を聞いたが、私には分からなかった。

 場面が変わり大きな城の玄関にお供の者と立っていた。沢山の人たちと奥に新しい父母と兄が出迎えてくれている。兄はとても優しそうでそれがすごく嬉しかった。以前の城は母の趣味で、青と深緑と赤茶の装飾が多かったのに比べ、新しい城は白地に赤の装飾、所々に青色と金色が施されとても都会的な感じがした。窓からは城壁の外の街と、山々の連なりが見えた。

 印象的な場面に飛ぶように促されると、私は今まさに城から抜け出すところだった。下働きの娘に譲ってもらったドレスに着替え、普段は足を踏み入れない台所脇の扉から裏庭に出る。走っていくと厩がある。そこで馬に乗り城の外に向かう。城の壁に一カ所壊れかかったところがあると聞いていたとおり、そこは難なく馬で飛び越えられた。

 街外れに立つと右には酔っぱらった兵隊が歩き、左側には高笑いする女たちが見えた。音楽に誘われ、石の階段を降りるとバーがある。私は初めて酒を飲み、踊った。途中で金をもっていないことに気づき、帰るに帰れない。そこへ兄が迎えに来た。兄が「さあ帰ろう」と私の腕を取ったとき、一瞬「叱られる!」と心のどこかで身構えたが、そこにいた私はそんな心配をする様子もなく、兄の顔を見てホッとしている。馬に乗ると兄はどうやって城を抜け出せたのかと聞いた。私が得意になってその方法を話すと、面白がって来た道をたどって戻ってくれた。

 場面が変わり、私はとても美しいドレスを身につけ、泣き出したいような気分でいた。その日は兄の結婚式だった。てっきり自分が兄と結婚するものだと信じていたが、兄は別の女性を選んだ。もうその場面にいるのは嫌で口を閉ざしてしまった。

 死期はそのずっと後。私は結婚をしないまま 70 歳近い年齢になっていた。豪華なベットに横たわり、沢山の人に見守られている。兄はすでに亡くなっていた。

「私の人生は幸せでした。でもほとんど自分の気持ちを行動に移せなかった。私のしたことと言えばたった一度城を抜け出して街で遊んだこと、結婚を拒み続けたことだけです」

 森の広場を通り部屋に戻った。ところがそこで最後のメッセージを見ると、 「見落としている」とある。

 見落としているのは多分、結婚式だ。私はあの日のことをまだ十分思い出していない。嫌々?思いを巡らせると、階段の下で兄と語り合う私の姿がぼんやりと見えてきた。

 私は兄に結婚しないで、と訴えている。私も兄を愛していると言っている。

「兄は、世界で一番君を愛していると私に言いました。もしも違う人生があったらきっと結婚しようと、約束してくれたのです。でも私には、私を愛しているのに別の人と結婚しようとする兄の気持ちが、全く理解できませんでした」




新しい一日の始まり

 過去世回帰療法では、その登場人物が今世の誰か、現在の自分にどんな影響を与えているのかが、自然と思い浮かびそして理解できる。それらが現在、自分を取り巻く人間関係を如実に説明することに驚きながら、前世の影響を取り外し、その一つ一つからの解放を実感した。

 タイプの違う女性たちが一生懸命生きる様を目の当たりにし、その一人一人が確かに自分とつながっていることを頭ではなく心が理解していた。そして今まで気づかなかった自分の中の別の一面が、何とも愛おしく心が温まるような感覚。

 この不思議な体験が本当に自分の前世だったのか、ソウルメイトとは本当にそんな関係があったのか、今はまだそれを科学的に確かめる術はない。しかし、この体験後、確かに私の中で小さな変化が顕れ始めた。山崎氏は「魂の成長という観点でものを見つめ直すと、大げさに悩んだり浮かれたりしなくていいという気持ちになる」と言った。前世療法の体験後、自分の目の前にあった幾つかの悩みは、生きている喜びに変化しつつある。










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